現 場 (第23回)
「この箱を開けて…」
少女が、小さな缶を手のひらに乗せて差し出す。それは、かわいい家の形をして、お菓子でも入っていたような缶だ。
フタには透明なテープが巻かれ、なぜか外側は錆びている。
受け取った私は、テープを剥がし、そっとフタを開けた。しかし、中身を見る前に目が覚めた…。
昨年の夏、足利のホテルで見た夢。
前夜、私は渡良瀬川の遺体発見現場にいた。事件現場は、どんな暗さだったのか検証をしていたのだ。その後、河川敷が見えるホテルにチェックインした。現場に立ち、気持ちが高ぶっていたのか…、
だから、そんな夢を見たのかもしれない。
あの日から、延々と取材を続けた。
その結末がどこに向かうのか、何もわからなかったが、関係者を廻り、幾度も現場を踏んだ。
可能な限りの全部が知りたかった。
古い事件。居場所が分からなくなった人を捜し、他県にも足を延ばした。警察や弁護団が会えなかった関係者からも話を聞いた。その結果、捜査や裁判に疑問を持っている多くの人がいることが分かった。それは遺族の方々も同じだった。
現場取材を続ける一方、私たちは、膨大な裁判資料を読み続けた。そして、現場と資料を比較し続けたことで、ある現実に気が付いた。それは、警察(検察)側から、裁判に提出された資料は、全体のごく一部に過ぎないということだ。
目撃者や現場検証などで判明した、多くの証拠や調書が、実は法廷には出されないまま眠っているのである。つまり、容疑者を有罪にするのに必要な証拠だけが取捨選択され、法廷に持ち込まれるのだ。
これは一見、当然のように感じるかもしれないが、そうではない。
公務員が、税金を使い、国民の協力の元に集めた証拠は、国民のために使われなければならない。 つまり、それは真実を追求することに使われるべきだ。だが、現実は、容疑者の逮捕と有罪立証だけに使われているのだ。長く、事件取材に関わってきたが、今回の体験で初めてそれを実感した。
書面や法廷だけでは分からない事実。
現場にはそれがある。
だから私は現場を離れることができない。
事件は本当に解決したのか、それとも未解決なのか。
その真実に近づかない限り、事件は再発するからだ。
そう考えて、今日も現場で取材をする。そして、性懲りもなく明日も行くのだろう。
それは、あの日夢の中でもらったあの箱、そこに何が入っているのかを、見極めたいからなのかもしれない。
(清水 潔)
Comment
がっかり さん
これで終わり。結局この1年間はなんだったのですか。
2009年01月07日 16:34
木村 さん
時効制度撤廃、警察組織の改革など、本当に今すぐにでも実現して欲しい。その為に我々一般市民は、まず何をすべきか?難しい。自分にできる事があればアクションしたいのだが。
2009年01月03日 23:53
GTB さん
このテーマを取り上げた事自体、大変有意義だったと思います。
2009年01月03日 23:26
連続事件 (第22回)
このブログを書き始めてから1年が経った。
第1回は『夏の極秘ミーティング』。未解決事件を取材するという事になり、
私は何十件もの未解決事件を調べ、そのリストを作っていた。
「これさ、連続事件だと思うんだよなぁ」
清水記者が、赤い丸を付けた事件は‘96年に群馬県太田市で起きた
『横山ゆかりちゃん行方不明事件』。
そして、その周辺で過去に5件の女児誘拐殺人事件が起きているというものだった。
狭いエリアで続いた類似した事件。犯人は同一犯ではないのか?
こうして、北関東連続幼女誘拐・殺人事件の取材は始まったのだ。
1年間を越える取材の結果、我々の疑問に対して、
思わぬ形で答えと思えるものが飛び込んで来た。
‘90年に栃木県足利市で起きたマミちゃん事件。
実はこの事件には、発生当初重要な目撃者がいた。主婦の松本さんだ。
マミちゃんが、行方不明になったちょうどその頃、渡良瀬川の河川敷で赤いスカートをはいた女の子と、一緒に歩く男を目撃していたのだ。
二人は、歩いて土手を下り、翌日にマミちゃんの遺体が発見された現場の方向へ向かって歩いていたのだという。
松本さんのご主人が話してくれた。
「翌朝のニュースに映った女の子の写真を見て、妻が“この子見た!”っていうんですよ。
妻は、絵の先生をしていて、見た物を覚える力に優れているんです」
松本さんの記憶は、実に鮮明だった。赤いスカートにおかっぱ頭が印象的だったという。
二人連れを見たのは、松本さんだけではない。近くに住む男性も目撃していたのだ。
警察は、松本さん達の目撃談を重視し、現場検証を行い、調書を取って捜査を続けた。
ところが、事件から1年半後に逮捕された男は、「自転車に乗せ誘拐した」と供述した。
松本さん達の「歩いていた」という証言とは食い違っていたのだ。
結果、松本さん達の証言は封印されていたのである。
一方、私たちは、群馬県太田市で起きたゆかりちゃん事件を取材した。
この事件は重要参考人の男の姿が、パチンコ店の防犯カメラに残されていた。
警察や現場にいた両親の証言を参考にして、コンピューターグラフィックを用い検証報道を続けた。
もちろん、男の映像も何度も放送した。
すると、放送終了後、私たちの元に1通のメールが届いたのだ。
『私が目撃した犯人らしき男を思い出してみると、あくまで今の感想ですが、
顔の輪郭や歩いているときの雰囲気がとても似ている気がします。
かけはなれていることはないと思います』
メールの差出人は、マミちゃん事件の目撃者、松本さんだった。
つまり、栃木の現場で目撃された不審な男と、群馬のゆかりちゃん事件の重要参考人がとても似ていると言うのだ。
私たちは、改めて松本さんに、防犯カメラの映像を見てもらった。
「姿勢もこんな感じだったんですよ。背筋がまっすぐで、前を見てサッサと歩いてる感じ。
歩くテンポとか、大股な感じっていうのは、似てると思うんですよね」
ベンチで話している男とゆかりちゃんの映像を見て、
「子どもがまったく怖がってないっていうか、懐いてるって感じで。
親子以外には見えないですよね」
栃木で見た、男と女の子の状況と似ているという。
繰り返し映像を見ても、松本さんの印象は、変わらなかった。
「時間が経ってますけども、警察の方が何回も来てくださって、
その当時の場面をよく思い出しつつ、絵も描いたりして説明したので、
ハッキリ記憶に残ってるんです」
共通点は他にもあった。松本さんが見た男の身長は160センチ前後。
防犯カメラが捉えた男は158センチ前後だ。
実は、松本さんは、これまで、隣の群馬県で起きたゆかりちゃん事件には、
あまり関心を持っていなかった。だが、今回放送を見て、自分が見た不審な男と、
防犯ビデオの男の共通点に初めて気づいたという。
栃木と、群馬の20キロ圏内で起きた5つの連続幼女誘拐・殺人事件。
私たちは、県境の垣根を越えて取材を続けてきた。
その結果として、たどり着いたのが松本さんの目撃談だ。
それは、管轄に拘る、現在の警察捜査の目線では、
埋没してしまった証言だったのではないだろうか。
私たちの1年以上に渡る取材は、
同一犯による連続事件の可能性を更に強くする結果に至った。
『ACTION~未解決事件』班のテーマのきっかけになった横山ゆかりちゃん事件だけは、
今も警察の捜査が継続している。
この事件が解決すれば、他の事件、少なくともいくつかの事件の真相が、
明らかになるのではないかと信じている。
未解決事件のブログを1年間お読み頂き、ありがとうございました。
皆様から頂くご意見は、私たちの取材の励みになりました。
また、1年間に渡る取材では、数多くの関係者の皆様にご協力を頂きました。
特に、ご遺族の皆様が、勇気を出し取材に応じて下さった事には、心から感謝申し上げます。
この場をお借りして、皆様にお礼を申し上げます。
本当に、ありがとうございました。
最後になりましたが、亡くなられた被害者のご冥福を祈るとともに、
ゆかりちゃん事件の1日も早い解決を願っています。
(杉本純子)
開局55年報道特別企画
ACTION「日本を動かすプロジェクト」2008最終章スペシャル
今日12月23日(火)午後4時53分~午後8時54分 4時間生放送
ACTION×真相報道バンキシャ 『未解決事件』
恐らく、ACTIONの取材班以外は、誰も連続性に気づかなかった、
北関東連続幼女誘拐・殺人事件。
1年間の取材でたどりついたのは、同一犯を示す重大証言だった。
これまでの個別の捜査では、浮かび上がらなかった、その犯人像に迫る。
ご感想、ご意見は下記フォームよりお書き込み下さい。
また、過去の取材ノートもぜひご一読下さい
縄張り(第21回)
元厚生事務次官宅を狙った、連続殺傷事件。マスコミが“年金テロ”と大騒ぎする中、
出頭した46歳の男は、“子供の頃、保健所に犬を殺された事の恨み”と動機を語っているという。
一連の事件報道で、ある全国紙の見出しに?と思った。
『情報共有 捜査のカギ』
共有?合同捜査本部ではないのか…。不思議に思って記事を読むと、この事件、
捜査本部は“合同”ではなく“共同”捜査だと言う。何が違うのか?
犯罪捜査共助規則によると、『合同捜査本部』は、関係都道府県のどこかに本部を設置し、その管轄の本部長に指揮権を一本化する。一方、『共同捜査』は、
関係都道府県で共同捜査会議を開き、情報は共有するが、指揮権はそれぞれ別にあるという。
証拠や状況などが、全部又は大部分が一致すれば、合同捜査本部が出来る。
だが、今回は二つの事件の関連性を示す証拠が足らず、“共同捜査”になったのだそうだ。
つまり、当初警察は、2つの事件を、同一犯によるものと断定出来なかった事になる。
面子を重視する警察という組織においては、どちらが指揮を執るのかは重大事項。
簡単に合同捜査本部という訳にはいかないということなのだろうか。
だが、警察の面子をよそに、男の自供によれば、埼玉、都内と事件を起こし、
更に県境を越えて第3、第4の事件も計画していたという。
私たちが追う“北関東連続幼女誘拐・殺人事件”も、栃木と群馬にまたがる2つの県で起きていた。
このエリアで起きた5つの事件は、合同も共同も組織的な広域捜査は行われなかった。
同一犯と考えられなかったのは、原因の一つだろう。
取材中に、栃木県警の元捜査員からこんな話を聞いた。
「栃木の所轄に住んでいる女性が、行方不明になって殺された可能性があった。
数日後に群馬で遺体が見つかったんだよ。うちの事件なんだから、遺体が棄てられただけで、出ばってくるなって言うんだよ。あっちは捜査も甘いんだよなぁ」
単に、県境の問題だけでなく、縄張り争いもあったようだ。こんな対抗意識の中では、
捜査情報の共有や、協力も、上手くいくはずがない。
警察という組織が勝手に引いた線が、捜査をより複雑に困難にしているのではないか。
(杉本純子)
自 供 (第20回)
1年以上、足利事件の取材を続けてきて感じるのは「捜査」への不信だ。逮捕された、菅家受刑者に対する調べ、起訴に対する感想である。
“あの事件は冤罪なのか?”
よくこう尋ねられるが、神でも無い限り、それにズバリ答えるのは難しい。だが、冤罪など珍しくない、とは言える。一例をあげよう。
2004年8月、一人の男性が逮捕された。逮捕理由は、お祭りでの小さなトラブルからの暴行容疑だった。ところが、拘留中にその男性は、別の2件の強盗事件を自供したのだ。
強盗事件は、同じ市内で4月と5月に起きていた。ケーキ店と生協の二か所で、目出し帽を被り、包丁を持った男が、金を奪ったというもの。連続した事件の捜査は、暗礁に乗り上げていた。そんな中での自供だったのである。
物証は何もなかった。男性の供述だけで調書を取り、検事は起訴した。
裁判が始まっても、男性は起訴事実を認めていた。検事は「更正させる途はない」と懲役7年を求刑。 そこで男性は、初めて無罪を訴えたのだ。
実は男性は、知的障害者だった。「やっていない、と言うのを忘れた」。そんな不思議なやりとりが、法廷内で繰り返されている最中、事件は急展開を迎える。
05年1月、まったく別の男が、事件を起こし逮捕され、先の2件の強盗も自供したのである。男の自宅からは、犯行に使われた目出し帽、包丁などが発見された。現場の足跡も一致。そして、被害者達の目撃証言とも合致したのである。
結局警察は、誤認逮捕を認める羽目となり、男性を起訴した検察官が、法廷で無罪判決を求めるという事態を迎えた。このお粗末な事態になったのは栃木県の宇都宮市。つまり足利事件と同じ管轄なのだ。
こんな話も聞いた。ある女性が宇都宮市内で、交通事故に巻き込まれた。女性が交差点を青信号で通過したところ、赤信号の車に衝突されたという。警察官もその主張で調書を取った。ところが1週間程してから、何やら様子が変わり始めた。事故相手が「自分の方が青だった」と主張を変えたのだ。すると検事は、女性の主張を聞かなくなった。という
「あなたの車が、信号を無視したのを見たという目撃者がいる」。「自分の非を認めれば、罰金で済むが、認めないなら起訴する、逮捕もあり得る」と、大きな声を浴びせたというのだ。だが、最後まで主張を変えなかった女性は、不起訴となった。
なぜ、事故から一週間して突如、加害者、被害者を逆転させようとしたのか、全くわからない。そして、目撃者がいたのなら、どうして検事は起訴をしなかったのだろうか。これでは、自供を取るための脅しと考えられても仕方ない。
こんな話は氷山の一角だ。日本各地で、痴漢事件や、選挙違反などで、容疑者扱いされた多くの人達が、自供に追い込まれ、その後冤罪が証明されている。
このようなケースを、数多く見ていると、「自供」というものが、いかに信用できないかよく分かる。「自供は最大の証拠」。現代も捜査の根幹は何ら変わっていない。しかし、重要なのは、自供の中に存在するはずの、“犯人しか知り得ぬ事実”や、そこから派生する物証、目撃証言ではないのか。
自供だけで、事件解決を図る限り、冤罪が無くなる日は来ない。
(清水 潔)


