動物かつては、ドリーンさんの村の中でも動物を見ることができた。
動物たちを探しにツンドラ地帯をスノーモービルで走った。
出発してから1時間、ようやく一頭だけカリブーを見ることが出来た。

かつては、毎日調理していたカリブーの肉だが、今はあまり口に出来ない貴重な食糧となってしまった。また、食べられなくなった原因は、動物がいなくなったことだけではない。
ドリーンさん「カリブーの体を切り裂いたとき、緑とか黄色いスライム状のものがあったんです」
野生動物の体内に起こった異変は、黄色い大気に原因があると原住民たちは疑っている。
だがアラスカにとってさらに大変なことが起ころうとしている。
アラスカ州での原油生産をさらに増やしたいブッシュ政権は新たな計画を企てている。
ドリーンさんが住むイヌキシット村から小型機で東に30分。
そこに広がるのが北極圏国立自然保護区(ANWR)。
ツンドラ地帯が広がり、地球上に唯一、「原始の自然」が残る貴重な場所だ。
春になるとここには数十万頭のカリブーたちがやってきて、子供を産み育てるまさに「野生の聖域」だ。
ANWRでの油田開発はカーター政権時代に禁止されたが、
ブッシュ政権は国内の原油産出量を増やそうとエネルギー政策を転換。
ANWRでの油田開発に向けた立法化を進めている。
ANWRに住むグッチン族のゲディエンさんはこうした動きに危機感を強める。
油田開発がひとたび始まれば、イヌキシット村のように動物がいなくなり、
村での生活は崩壊する。
カリブーのみならず、生息するホッキョク熊やジャコウ牛なども絶滅する。
「石油が足りないのではなく、石油を浪費するアメリカ人に問題がある!」とゲディエンさんは訴える。
アメリカが油田開発を続ける背景には、大量消費国アメリカの自己矛盾がある。
GDP世界のナンバー1の地位を維持するためには国内産業のさらなる活性化が不可欠で、
エネルギーの消費を減らすわけにはいかない。
二酸化炭素の排出を規制する京都議定書に調印できない理由もそこにある。
しかし、こうしたエネルギー消費推進政策の結果、アラスカの自然は破壊され、
地球温暖化が進み、環境に取り返しのつかないダメージを与えることになることを
アメリカはまだ理解していない。
アメリカ議会ではアンワーの油田開発を認める新たなエネルギー法案を巡って、
開発推進派と環境保護派との間で激しいせめぎ合いが続いている。
開発か、それとも自然保護か。
超大国アメリカが負う地球規模の責任はあまりに大きい。
世界最大の温室効果ガス排出国アメリカ。
地球温暖化問題への世界的な取り組みが声高に叫ばれる中、
ブッシュ政権は石油やガソリンの消費を削減しようとエタノールなどの
代替エネルギーの普及促進を打ち出した。
温室効果ガス削減に向けてようやく重い腰を上げた形だが、
京都議定書が定める削減の数値目標を設けることには
あくまで反対の立場を貫いている。
一方、アメリカが積極的に推し進めているのが、国内油田の開発だ。
中国などの原油の需要が急増し、中東など海外からの供給が不安定さを増しているからだ。
アメリカ50州の中で最大の面積を誇るアラスカ。
テキサス、カリフォルニアなどと並んでアメリカでも有数の油田地帯である。
南北2000キロを縦断するパイプラインはその象徴だ。
このアラスカに実は今、異変が起きている。

2005年秋、われわれ取材班はアラスカ北部北極海沿岸を取材に訪れた。
マイナス30度を記録する寒さの中、ホッキョクグマの出迎えを受けた。
間近で見るナマの野生動物にしばし感動。
しかしここが動物たちの楽園と思いきや、北極海には似つかない異様な建物が目に映る。
原油の掘削場だ。
地中2500メートルにある油田を掘っているのだ。一日の生産量は100万バレル弱。
この地方での生産量は、アメリカ国内の全原油生産の4分の1を担っている。
アラスカの原油生産は、アメリカの経済を支える、重要な産業なのである。

石油コンビナートの近くで猟をするドリーン・ヌカポックさん。イヌピアットという原住民だ。
凍った川の上でドリルで氷に穴をあけ、仕掛け網の漁をしている。
石油コンビナートができてから、この地で動物を見ることはめっきり少なくなったという。
その原因となるものを我々は目撃した。地平線上に黄色い大気が広がっている。

黄色い大気は、コンビナートからの煙によるスモッグ。
石油を汲み上げた際に吹き出した天然ガスが大気中で燃やされてできたものだ。
スモッグからは、酸性雨の原因となる二酸化窒素が含まれている。
その排出量は、アメリカの主要都市よりも多い、7万トンにも達している。
この膨大な二酸化窒素が酸性雨となって、アラスカの地表に降り注いでいるのだ。